コーネル大学・ホテルスクール留学記

コーネル大学ホテル経営大学院で学んだ記録です。

ホテルスクールの学問領域

ホテルスクールについて、Facultyが研究を行っている学問領域の観点から、どのような学校なのか見てみたいと思います。

ホームページに掲載されている学問領域別のFaculty Directryでは、以下のような小分類になっています。(注.かっこ内の数字は在籍Facultyの数。)

Accounting(4)
Employment Relations, Human Resources and Law(8)
Entrepreneurship(3)
Finance(6)
Food & Beverage Management(8)
Information Systems(3)
Management Communication(6)
Management & Organizational Behavior(6)
Properties Development and Management(3)
Real Estate(8)
Services Marketing(7)
Services Operations Management(8)
Strategy(3)

これを見ると、Properties Development and Management(3)、Real Estate(8)、Food & Beverage Management(8)、Services Operations Management(8)はやはりホテルスクールならではだと感じます。

---それぞれの研究内容---

Properties Development and Management

ホスピタリティ関係のアセット(ホテル、リゾート、スパ、レストラン)の運営や開発に関する分野です。デザイン、環境、プロジェクト・マネジメントの観点から研究している教員が在籍しています。

Real Estate

Real Estateでは、ホスピタリティに関するアセットの金融的側面について研究がされています。ホテルに関する研究では、Real Estateが人数的には最大派閥です。

Real Estateは、特にホテル開発が盛んな米国らしい学問領域です。というのも、米国では、ホテル開発における役割が、投資と運営で完全に分かれており、比較的近年に所有と運営の分離と言われ始めた日本以上にホテル事業は金融色が強いからです。実際にファンドによる投資も盛んなので、金融的にワークするアセットにはホテルがどんどん建っていく傾向にあります。具体的には、ホスピタリティ関係のアセットに特化した収益モデルやバリデーションの手法などについて研究がおこなわれています。

Food & Beverage Management

ホスピタリティの中でもレストランサイドに特化した分野で、ホテルスクールの一般的なイメージに最も合致する分野だと思います。。レストランのメニュー開発、サプライチェーン、労務関係、オペレーション、マーケティングなどについての研究が行われています。個人的に面白いと思ったのは、レストランのオペレーションです。需要予測のもとに、収益を最大化するための在庫や人員の数を特定するモデルを構築したり、Table Mixの研究をしたりしています。(TableMixとは、例えばレストランについていうと、一人のお客が多い地域で大きな団体用の大きなテーブルが多いと、相席しない限りはテーブルのスペースに無駄が生じ、リソースの有効活用ができません。このため、予測される顧客層に対して最も効率の良いテーブルの組み合わせをモデル化するのがTableMixの考え方です。需要と滞在時間も日や時間帯によって異なりますし、テーブルや椅子の配置や数、照明、スタッフの数など変数がとにかく多いのでとても複雑です。。)また、大学の中建物の中にキッチンとレストランhttps://www.facebook.com/cornellESTB/があり、学生が開発したメニューが外部の客に振る舞われているのもホテルスクールらしいです。

f:id:Akshay13:20161220061512j:plain

大学内のレストランをMasterの学生で貸し切った際の写真

Services Operations Management

多くのMBAにも教員が一人二人は在籍して研究している分野かと思いますが、ホテルスクールではその在籍教員数がRealEstateと並ぶ一大分野となっています。ホテルスクールで特に研究が盛んなのは、Revennue Managementと言われる分野です。これは、エアラインで一般的に採用されているダイナミック・プライシング(需要と供給のバランスを見ながら随時チケットの価格を変動させる仕組み)のモデル化について研究する分野です。ホテルの部屋ように、売れ残ってしまうと何ら収益を生まない商品を、one time inventoryと言いますが、Reevenue Managementでは、需要に応じて価格を変動させることで、このone time inventoryが生み出す収益を最大化しようとします。

実際、米国のホテルではこのダイナミック・プライシングが根付いていて、普通の三つ星ホテルでも土曜日と月曜日の価格が2倍ほど離れていることもよくあります。日本ではここまで大胆なダイナミック・プライシングはなく、あっても繁忙期と閑散期のようなざっくりした分けが多いです。

なお、このRevenue Managementの考え方は、米国ではホテルのみならずスポーツなどのイベントの座席、レンタカー、エアライン、鉄道などあらゆるビジネスにその考え方が採用されています。

それ以外の分野

それ以外のAccounting、Finance、Services Marketingなどについては、教員はホスピタリティと全く関係ないことを研究していることが多いです。講座名にHospitalityの名前を冠する授業については、例えばHospitality Financeならフランチャイズやリースについて多めに扱うなど色はつけられていることは多いものの、主たる教授内容はHospitalityに特化していないことが多いです。あるFinanceの教授になぜホテルスクールに在籍しているのか聞いてみたところ、「Hospitalityと直接関係のない分野の教授は、過去に何らかのHospitality関係の論文を書いたことから、ホテルスクールから声がかかってホテルスクールに在籍している。ただ、彼ら彼女らの主な関心がホスピタリティ関係かと言うとそうではなくて、単純に研究環境やテニュアのホテルスクールに在籍していることが多い。」とのことでした。実際に、これらの一般的なビジネス関連科目は、ホスピタリティだからと言って大きく研究領域が変わるわけではないでしょうし、学生側のニーズとしても取り敢えずは一般的な内容を学びたいという分野でしょう。

---ホテルスクールの学問領域の今後---

ホテルスクールのアイデンティティ

このように学問領域をブレークダウンして細かく見ていくと、ホテルスクールで研究されている分野は必ずしもホテルスクールで研究する必要性がない分野が多いのではないかと映るかもしれません。実際、多くの分野はデザインスクール、農学部(食品科学学部)、MBA、経済学部でそれぞれ個々の教員が研究していておかしくない内容ですし、実際に教員がPh.Dを修得した研究機関を見てみるとホスピタリティ系の大学院でないことが少なくありません。個人的にも、教員の中にはホテルスクールへの愛着が少ない人が一定数いると感じます(学生の間ではホテルスクールという場所に対するアイデンティティの意識が強いのとは対照的です。)。

日本でも、学際領域の扱いについて繰り返し話題になる分野も多いと思います(法学部に設置されている政治学行政学、文学部に設置されてる人文地理学、また最近よく新設されている国際関係学部全般など)。ただ、コーネルのホテルスクールについては、コーネルの他の部局とは会計はほぼ独立しているため、ホスピタリティの学問領域の境界について議論することはあまり意味がないと個人的には思います。ホスピタリティ学であろうと、その他の学問領域であろうと、ホテルスクールがホスピタリティ業界のリーダー養成のために教育・研究が必要であるから当該分野の教員を雇用しているというだけだからです。

ジョンソン・スクール(MBA)とダイソン・スクール(農業経済系の経学部)との統合

また、ホテル・スクールのアイデンティティを揺るがしかねない出来事として、現在検討されているジョンソン・スクール(MBA)とダイソン・スクール(農業経済系の経学部)との統合についても言及したいと思います。

一応、3つのスクールの方針として、3機関を統合の上、College of Businessという新たな機関を設置することは既に決定しています。ただ、統合後も、それぞれのスクールのアイデンティティは維持する方針とのことです。とはいったものの、現時点で統合作業は遅々として進んでおらず、学生・教員の間では先行きが心配されています。