コーネル大学・ホテルスクール留学記

コーネル大学ホテル経営大学院で学んだ記録です。

宿泊業の生産性について(メモ)

米国の宿泊業の生産性について聞かれることが多いのでコメントしておきたいと思います。
まず、生産性という指標ですが、ビジネスサイドを勉強するホテルスクールで議論になることは殆どありません。なぜでしょうか?一言で言うと、従業員数にことさらスポットを当てた指標はホテル経営上あまり意味をなさないから、と言うことができると思います。*1

日本生産性本部によると、(労働)生産性は以下の式で表されます。

価値労働生産性=生産額÷従業者数

そして、米国の宿泊業の生産性が100だとすると、日本の宿泊業の生産性は34にとどまるとしています。

この指標については、3つの意味で日米の比較にも向かないと個人的は考えています。

一つ目の理由は、日米では宿泊業の構造自体が異なることです。米国では宿泊業と言っても最も労働集約的な部分はアウトソースされていることが殆どです。他方、日本の場合は小規模な事業者の場合、自ら運営する場合が多いと考えられるので、従業員数は多くなり、生産性が低くなっていると思われます。

二つ目の理由は、日米では賃金の水準が異なるからです。日本ではよく誤解している方もいるのですが、米国の賃金水準は日本よりもかなり高いです。(例えば、NY州やCA州などの最低賃金は15ドルとなることが2016年に決定。)そのため、経営側からすると可能な限り従業員数を抑える方向になりますが、日本のように賃金の安い(安くなってしまった)国であれば経営上従業員数を抑える必要性は米国よりは高くありません。このように、人件費が異なるのに従業員数を日米で比べる意義は薄いと思います。極端な例ですが、安価な労働力が豊富なインドと日本の従業員数を比べるのに意味がないと言えばイメージして頂けると思います。(仮に比べるとしても生産額÷人件費とすべきでしょう。)

三つ目の理由は、生産性という指標にはサービスの質については直接は考慮をしていないからです。つまり、乱暴な議論をすれば、最も簡単に生産性を上げるためには従業員を減らせばいいわけですが、それは議論の本質でしょうか?

では、なぜこのように生産性に日米の差が生じているのかというと、日本の消費者の要求水準が高いからかもしれませんし、日本の宿泊業は小規模な家族経営が多い為、従業員数は経営上の問題にならない可能性もあります。また、そもそも売り上げが低くても家族経営でコストは殆ど掛からない為、利益がギリギリ出ていて事業として回るならいいということもあるかもしれません。労働力の需給も関係があるでしょう。理由は様々あると思いますが、いずれにしてもマクロ的な問題であって、経営の効率化の問題ではない可能性も大いにあると思うのです。

とは言っても、生産性という指標の是非を離れれば、特に小規模な事業者が多い宿泊業の経営の効率化や、労働力不足への対応は大きなイシューだと思いますし、労残りの期間でヒントになるようなものをたくさん日本に持って帰りたいと考えています。

*1:経営の効率化は、最終的にはROEROAの比率を上げることが目標ですが、議論を単純化するためにROAに絞って考えたとしても、ROAを向上させるのには利益率を向上するのと、資本回転率を向上する二つの方法があります。生産性が拠り所にする従業員数はそのうち利益率にのみ関係する指標ですが、資本回転率を上げてROAを上げるという戦略もあります。利益率を上げるか資本回転率を上げるかどちらがいいという問題ではないため、ことさら利益率の位置構成要素である従業員数に注目して生産性を論じる意味はあまりないのだと考えています。